紅茶いちゑ 喫茶去トピックス

紅茶をめぐるインドの旅2001


1.2001年8月9日号:カルカッタから

 この号外はカルカッタのThe Park Hotelから送信しています。インドも電話事情がかなりよくなり、ところによってはISDNも普及しつつあるようです。但し、1時間$20だそうですから、常時接続すると大変な金額になってしまいます。ホテルのアナログ回線を使って、国際ローミングでメールが受けられたので、まぐまぐにアクセスしてみることにしました。できれば、インドからHPも更新してみたいと思っています。
 明日からはJorhatと言うアッサムの辺境の地に行きます。ここはアッサムの紅茶の中心地で茶業研究所があります。
 その後、またカルカッタに戻ってきます。ダージリンの茶園の本社オフィスを2箇所訪問する予定です。(どの茶園も本社はカルカッタにあります。)
 Jorhatの電話事情が許せば、号外2号を研究所からお送りします。
(左の写真はホテルの近所のCD屋さんです。エアコンが効いていてインドの人気歌手の最新版の試聴もできます。内装は大変モダンでした。入口には自動小銃を持ったガードマンがものものしく立っていました。)

2.2001年8月12日号:茶業研究所で学んだこと

 この号外はカルカッタから送信しています。残念ながらJorhat(ジョールハット)には国際ローミングのアクセスポイントが無く、ゲストハウスからは交換手抜きで長距離電話がかけられませんでした。唯一モデムを備えているコンピューターとLAN接続できないかと思いましたが、ハブがありませんでした。おまけに時々アッサム名物の停電があり、ろうそくや非常灯が備え付けられています。エアコンが一旦切れてしまうと、停電が終わっても回復に5分かかるのが辛いところです。
 さて、JorhatのTocklai Experimental Stationと言う国立茶業研究所に行って来ました。ここでは茶樹の品種研究や薬理作用を研究しているところで、ちょっと場違いな感じもしましたが、私たちの初歩的な質問にも熱意を込め、とても親切に答えてくださいました。今まで来た日本人はお茶の研究者ばかりで専門分野の話だけして帰ったようで、日本人の味の好みの話などはかえって興味深く思ったようです。紹介者のNEW TEAの社長が有力者だったから親切にしてくれたのかもしれませんが…。ゲストハウスにはTATA TEAやGOODRICKE GROUP専用の部屋があるので、紅茶業者が補助金を寄付しているのかもしれません。
 アッサム州の奥地は昔の日本の風景に似ていると何かの本で読んだことがあります。空港から宿泊先まで水田と茶園が続き時々集落が点在している程度で町らしきものはありません。施設は農業大学と茶業研究所くらいしかないようです。一角犀で有名ですが、牛くらいしか見かけません。ある人のエッセイにアッサムは飛行機を降りると見渡す限り茶園と書いていますが茶樹はほとんど見かけません。もっともTezpurに行けば茶園ばかりなのかも知れませんが…。去年行ったオークションセンターや茶園のオフィスのあるGauhati周辺には茶園が無く、研究所があり紅茶の中心地と呼ばれるここJorhatでも茶園より水田の方がずっと多いのです。
 ところで、アッサムの紅茶は昔と比べてライトな味のお茶が増え飲みやすくなった反面、ミルクティー向きでなくなってきています。この変化の真相は品質よりも収量を重視した品種に切り替えていることが大きく影響しているようです。また、製法自体もオーソドックスタイプのものでさえ、手間を省いてコストダウンした方法に切り替えているようです。この答えを導くためになんと3人の研究者(品種改良の専門家、薬理学の科学者、植物学者)と専属ティーテイスターに聞いて答えを総合してやっとわかりました。4人とも大変な自信家でアッサム訛りの解りにくい早口な英語で熱弁をふるうので、聞いていて大変疲れました。品質より収量を重視しているのは増え続けている国内需要をまかなうためでもあります。
 ティーテイスターは日本人の味の好みについて興味を持っていたので、ペットボトル入りの日本茶をお土産に差し上げたらとても喜んでいました。アッサムでも5−6茶園が試験的にグリーンティーを作り始めているそうで、CTCのサンプルを少量くれました。ダージリン グリーンにも似ていますし、日本茶とウーロン茶の中間の味とも言えます。味はともかく、アッサム グリーンは薬理学的にはポリフェノールが多く健康的なんだそうです。でも、私は何と言ってもおいしい方が良いです。
 

3.2001年8月13日号:我らは紅茶質問隊

 13日は朝からハードに行動しています。午前中はGopaldhara茶園のカルカッタ オフィスを訪ねて、珍しいダージリンを試飲してきました。ここの会社はオーソドックスなダージリンだけでなく、新しいバリエーションを作っています。Magic, Wonder, Black Thunder, Silver Thunderと名づけられた特殊なダージリンです。社長は意外に若くてかわいい顔立ちの人です。自分でパソコンを使って、積極的にマーケティングをしているようです。社長のお父さんは機械技術者から転身した人で、見るからに勉強家です。ダージリンについての私たちの素朴な質問にも熱意を込めて答えてくれました。彼は経験や勘にたよった品質管理を廃し、徹底的に記録し、原因を追及して因果関係を明らかにしてきました。確かにこの茶園の紅茶は一目見ただけで美しいできばえです。この会社を訪問するきっかけは自宅を発つ30分前に最後のメールチェックをしていて、サンプルを送ろうかと言うメールを受け取ったからです。そこで”これからインドへ行くので、13日か14日にカルカッタ オフィスに伺いたい”と返事をして旅立ちました。
 午後からはティーオークション会場に参加して、バイヤー席に座って競りを見学してきました。オークション会場は大学の階段教室そっくりで、バイヤーごとに席が決まっているそうです。最大のバイヤーはやはりリプトンだそうです。意外とビットは整然と行われていました。月曜日の朝8時半から夕方6時半まで硬い椅子に座って競り落とすのは忍耐がいりそうです。出品が多いと火曜日に持ち越されるそうです。(右の写真がオークション会場です。机の上に広げられているのが、リストです。)
 それから階上のテイスティングルームで行って、またティーテイスターたちを質問攻めにしてきました。そこではオークションにかけられる紅茶を三人一組で一度に百種類以上鑑定していました。ダージリンのファースト フラッシュ、セカンド フラッシュ、オータム フラッシュはどうやって決めるのかとか、マスカテル フレーバーは何かとか、FTGFOP, SFTGFOP, SFTGFOP-1のようなグレードの決め方とかとかです。ちゃっかり今年のダージリンはどの茶園のできが良いのかも聞いてきました。
 夜はPoobong茶園のオーナーの誕生日パーティーに呼ばれているので、木綿の着物に着替えて出かけます。会場が涼しいと良いのですが…。4時過ぎにスコールがあったので、昨日よりはいいかもしれません。

4.2001年8月14日号:インドの食べ物

 今回カルカッタではThe Parkと言うSmall Laxjuary Hotelに泊まったので、朝からおいしい食べ物に恵まれています。朝食はバイキング形式でジュース、果物、シリアルのコーナーとインド風と洋風の朝食が並んだコーナーから取ってきて食べます。sambar(野菜カレースープ)、vada(甘くないドーナツ)、onion uttapam(小さいお好み焼き)、potato cake(ジャガイモのパンケーキ)、idri(蒸しパン)がインド風で、パン、ソーセージ、ベーコン、スクランブルエッグ(卵の黄身の色が薄いのでかなり白っぽい)、豚抜きポークビーンズ、ポリッジが洋風メニューになります。そして紅茶かネスカフェが選べます。
 The Parkのインディアン・レストランは洗練されていて何を食べてもとてもおいしいのですが、価格は日本並みです。いかにもお金持ちそうなインド人が来ています。アメリカ人の宿泊客はみかけませんでした。私たちはタンドリ料理を堪能しました。
 茶業研究所のゲストハウスのコックも田舎なのにセンスの良い料理を出してくれました。ごはんと鶏かマトンの辛いカレー、全然辛くない豆カレー、ジャガイモとグリーンピースのカレー、スパイシーな魚のソテー、チキンカツ、sabziと呼ばれる野菜炒めなど5皿とフレッシュなサラダがでてきました。きゅうりの直径は5cmくらいで、赤たまねぎのスライスと水っぽいトマトが載っています。トマトやチキンポタージュがでてくることもありました。たまに”す”(火加減が強くてできた細かい穴)の入ったカスタードプリンやあまり甘くないフルーツカスタードのようなデザートがつきました。 中華料理の晩もあり、炒飯が上出来で、野菜焼きそば(お米の麺)はかなりスパイシーでした。豚抜き酢豚(Sweet Sour Vegitableと言うらしい)がユニークです。
 朝ご飯はシリアル、青いバナナとりんご、トースト、たまご料理、フライドポテトが出てきます。インドのジャガイモはねっとりして甘味もあり、最高です。食事中は水だけで、特別に頼まなければ食後のお茶もでてきません。
 誕生日パーティーはTajiというカルカッタで最高のホテルのレストランで鶏と魚のタンドリ料理とほうれん草とチーズのカレー、ナスのカレー、フライドチキン風精進料理をご馳走になりました。インド人の好きな焼き飯のスパイスはどうも好きになれません。ナンやパパドは最高です。時々お線香を食べているような味わいの料理もあり、閉口します。あと、インドのデザートを食べると甘すぎて頭が痛くなるので、いつもお断りしてしまいます。食後においしくないカプチーノを飲みました。
 いずれにしても郷に従っていては、ウェストがすぐに80cmを超えてしまうのが目に見えています。インド料理は砂糖、油脂、塩分が多く、おまけに暑さを避けて夜8時過ぎからカロリーの高い料理を食べ始めます。だから太り過ぎの人が多く、健康的とは言えません。普通の体格の日本人は20代のインド人並みにやせているので、それだけでかなり若く見られるようです。但し、10代前半くらいまでの子はお金持ちの子もみんな日本の子よりずっとやせっぽちです。

5.2001年9月5日号:紅茶の世界も動いている

 今年のインド旅行では茶業研究所、茶園本社オフィス、オークション会社のテイスティングルームなどを訪問して紅茶について色々勉強してきました。それで解ったことを一言で言うと紅茶の世界の実情は日本で読んだ本に書かれている内容と大きく変化してきていると言うことです。
 味の変化には気候の変動による影響もありますし、病気に強く収量の多い品種の茶樹に50年かけて改良してきたこともありますし、よりおいしい紅茶を追及して努力している茶園もある一方で、利益追求に走っている茶園もあるということも考えられます。ダージリンの名門の茶園の紅茶が品質の低下でカルカッタで露天商に売られる程まで落ちぶれてしまっていたりもしています。(ダージリン茶は外貨獲得の貴重な商品なので、品質の高いものは国内市場には出されていません。)
 それ以外の大きな要因として、私が推測していることがあります。インドでは近年国内需要が増加してきており、全体の生産に占める輸出品の割合は減少し続けています。今回何度かテイスティングをして感じたことは、インド人が好む紅茶の味わいとヨーロッパ(特にドイツ)向けの紅茶の味わいと日本人が好む味わいがかなり異なるなと言うことです。茶業研究所で最高の味の紅茶と言われた新品種のアッサム茶はミルクティー向きではなく、色が濃い割りにあっさりしすぎて、日本人が飲んだらアッサム茶とは誰も思わない驚く味でした。GNPが上がって、国内需要がより高級茶に向かっていくと、そういう味の紅茶が主流になっていくのかもしれません。また、大衆品として低価格を求められ、増産に励んでいる産地では一芯二葉ではなく、5番目くらいの葉まで摘んでいるそうですから、品質の低下は否めません。
 あと、オーガニックはヨーロッパで人気がある割にはインドの茶業関係者はあまり良い顔をしません。有機栽培をすると収量が半分に落ちてしまうし、味も渋くなり、香りがあまりよくないからでしょうか?農薬をやめたら、虫の種類が増えて、自然環境が回復していると言う意見もありますし、堆肥をたくさん入れると富栄養化がおこり水質汚染問題がおきると言う意見もあります。一概に無農薬有機栽培が自然にやさしいとは言えなさそうです。もともとインドの茶園は日本茶の茶園と比べると百倍くらい広大で手をかけられないせいか、経済的理由のせいか低農薬なのです。だから、残留農薬検査をしてもわからないのか、オーガニックという名前だけで、実際は詐欺まがいの茶園もあるそうです。偽物のダージリンと言うと以前はドアーズ産と言われていたのですが、最近はヒマシャル パラデシュというデリーの北方、西北インドの紅茶を混ぜているそうです。益々選ぶのが難しそうですね。
 作り手の顔の見えない紅茶を買うのはだんだん怖くなってきたので、オーナーの意気に感じた紅茶を日本で再テストして注文しました。

6.2001年9月26日号:インドの空港では

 インドでは搭乗券を持っていない人は空港の建物に入れません。お見送りやお出迎えもどんなに暑くても建物の外です。国内便でも1時間前には空港に行かなくてはいけません。入口の両脇に小銃を持った兵士が立っていて、ドアの内側で先ず金属探知のゲートをくぐります。ちょっとびびってしまいますが、解らない事がある時は兵隊さんに尋ねてみると親切な口調で教えてくれます。それから荷物室に預けるスーツケースのX線検査があり、場合によってはスーツケースの中身をポーチの中身まで一つ一つ開けて見せて説明します。プラスティックのテープで検査済みの封印をしてもらいます。鍵のところにシールをベタベタ貼られる場合もあります。念入り過ぎて後ではがすのに一苦労です。
 それから航空会社のカウンターに行き、チェックインします。機内持込荷物に付けるタグを個数分もらいます。ポスターのような単に紙を巻いたものでもタグは必要です。それからBoadingの案内があるまで待合室で待ちます。
 それから、もう一度金属探知のゲートをくぐり、男女分かれて、試着室みたいな所で念入りにボディーチェックを受けます。衣服で覆われている部分は全て同性の係官に触られます。手荷物をX線検査に通して、中身を見せます。カメラはフラッシュをたいて見せ、デジカメやノートパソコンは電源を入れて起動させます。化粧ポーチも開けて見せます。予備の電池や缶入りの紅茶は機内に持ち込めないので、指示に従って、パーサーに預けたり、手提げに入れて荷物室積み込みにしたりします。自分の持ち物を英語できちんと説明できないと時間が余分にかかります。手荷物のタグに確認済みのスタンプを押してもらいます。
 それから、滑走路脇の荷物確認のところに行き、自分のスーツケースを指差します。(確認されない荷物は飛行機に積み込まないと立て札等に書かれています。) いよいよ飛行機に乗り込む時に航空券のチェックと手荷物のタグの確認済みスタンプを確認したスタンプ(インクの色が変わる)を押してもらって、炎天下滑走路を歩いていくと、タラップの前でもう一度ボディーチェックをされます。女性用に簡単なついたてが立っていますが、念入りに体を触られると大層屈辱的な感じがします。パッドやワイヤー入りのブラジャーでさえ、武器を隠し持っているのではと疑われるほどなんですから…。それまでご機嫌ですごしていても、憮然としてしまいます。飛行機はほぼ満席状態なのに、一人一人こんなことをしているので、当然離陸時間は15分や20分は遅れてしまいます。空港内では写真撮影禁止ですし、簡単な飲み物のスタンドくらいしかないので、忍耐強さが要求されます。民営の飛行機に乗り込んで愛想が良い美男美女の客室乗務員からキャンディーをもらう頃にやっとご機嫌が直りますが、国営航空会社の無愛想なスチュワーデス相手だとずっとご機嫌斜めな旅になってしまいます。

7.2001年10月5日号:アッサムティーの秘密

 この夏アッサムの茶業研究所では有機化学(ポリフェノールなど)、植物学(品種改良)、土壌学(施肥などの栽培技術指導)、専属ティー・テイスター、実験農場の責任者に色々質問して、この20年のアッサム茶の味の変化の秘密を聞いてきました。それぞれ、素人の素朴な質問に長時間を割いて、根気良く教えてくださいました。この研究所のゲストハウスにここ数年に宿泊した日本人は大学の農学部の先生が数人いるくらいで紅茶関係者はほとんどいません。
 最近のアッサム紅茶は以前のような強烈な個性が無くなり、マイルドな味わいに変わってきていると思いませんか?この変化の一番大きな要因は茶樹の品種が変わってしまっているからなのです。インドでは増え続ける国内需要をまかなうために20世紀の半ば頃から品種改良を始め、徐々に病気に強く収量の多い品種に切り替えてしまったことのようです。(今の割合で、国内需要が増え続けると生産が追いつかず、何年か先にはインドは紅茶輸入国になるかも知れないという説もあります。)
 本にのっているような葉の長さが20cmもあるようなアッサム種の茶葉は交配用の親木として僅かに植えられているだけで、その品種での茶葉の生産は現在は全く行われていないとのことでした。ハイブリッドの中で一番味の良いのはアッサム種と中国種から作られた茶葉の長さが9cmと小さい葉の品種だそうですが、収量が多い品種がもっとも多く植えられているそうです。この種は葉の大きさが14cm程で昔のアッサムが葉が地面に水平につくのに大して、葉先が下をむいているのが特徴です。
 品種改良と言っても、親木となる品種を交互に植えて、種を取って育ててみるという、のどかな方法でした。50年かけて代表種が30種できたようですが、病気に強く増収を第一目的としていて、味の良い品種を作ることは私たちに質問されるまで全く考えていなかったようです。もっともインド人が好む味わいとヨーロッパ人が好む味わいはかなり異なるようです。研究所の人たちがおいしいと思う味の紅茶は色ばかり濃くてあっさりした味わいの紅茶で、ミルクティーむきではありませんでした。病気に強いので農薬もほとんどいらないし、窒素肥料を少しやれば良いそうです。そのような品種を推進しているので、栽培指導の専門家もオーガニック栽培には全然興味がないようで、堆肥だとリンが多くなってしまうとのことです。オーガニックのダージリンやウバが渋いのはリンのせいなのでしょうか?収量が多いと言うのは新芽の成長が早いおかげでアッサムでは一芯二葉を守っているそうです。(最近大きく味が落ちてきた産地がありますが、一芯四葉くらい摘んでいるからだそうです。)
 ここまで教わって、カルカッタ最大のオークションセンターのテイスティングルームでティー・テイスターに収量が多いアッサムはどれですか?と尋ねても葉の小さいアッサムXチャイナ・ハイブリッドがおいしいことを知っていてもその他の品種は名前すら知らないようでした。アッサム紅茶の現状は日本茶好きの人がヤブキタが主流と知らずに在来品種と思い込んで飲んでいるのと同じだと思いました。


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